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女達が自分の前からいなくなり、そうして目の前に立つ男。
毛質が良さそうな、オレンジ色の髪。人工的なものだろうと、根から綺麗に染まっている。それはもうつい手を伸ばしてみたいと思う程に。
175cmぐらいはありそうな、こころより幾分か高い身長。
瞳の色はカラコンを入れたんじゃないのかと思うぐらいに茶色いが、カラコン特有のあの丸い枠縁が一切見て取れないため天然ものだと知る。大きな瞳は綺麗なアーモンド型。
ニキビとは無縁そうなキメ細かな肌は中性的な顔立ちをしており、全体的に爽やかなイメージを脳に植え付けさせる風貌。
だからこころは我耳、我目を疑わずにはいられなかった。
さっきのあの好き勝手な物言いは本当にこの男から発せられたものなのだろうか。
それだったら、外見と中身の温度差があまりにも激し過ぎる。
今まで自分に言い寄ってきたどの男にも劣らないその容姿に息を呑むが、直ぐにこころは冷静さを取り戻した。
美しい造りをしているからって何。男は男。
「何ですか?」
目を細め、薄っすら笑みを浮かべて男を見据えた。
それに男はピクリと眉を反応させ、こころに歩み寄る。
目と鼻の先に立って、男はこころを見下ろし――
「どうして、何も言い返さない?」
表情なくしてそう言ってきた。
その言葉にこころは目を丸くした。あまりにも意外過ぎたからだ。
けれどハッと我を取り戻し、あくまでも冷淡に「何のことですか?」そう返した。
笑顔で、本心を見せずに。
ふーん、と男は鼻を鳴らし、こころと同じようにして口元に笑みを作る。その目は笑っていないように見えた。
「それは図星だから?」
「そう取っていただいて構いませんよ」
否定はしないが、肯定もしない。
どうせ何を言おうが無意味なのだから。
それならばいっそ好きにしてくれれば良い。
彼等の中で自分と言う存在を好きに創作してくれれば良いから。
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