接触Ⅰ ―オレンジ―

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何が起こった? この男は何を? 手の甲は僅かに赤くなっており、少しだが痛みもある。 想定外なことが起こったのだった。 こころはしばし自身の叩かれた手を見つめては、その後に男を睨むべく顔を上げ……たのだが、男に鋭い視線を送るつもりがそんなことは頭の片隅へと追いやられ、彼女は表情筋を硬くさせた。 何故自分が逆に睨まれているのか。美人は凄むとよく分からない怖さがあるソレとよく似ている。 取り敢えず怖い。おぞましい。ゾッとこころの背筋に悪寒が走った。爽やかな面影全てを取っ払い、温度を感じさせない眼で男はこころを見据えてくる。 そして極め付けは…… 「俺、あんたのこと大嫌い」 怒りを宿した瞳を一変させ、頬を緩めて放たれたこの一言に、さすがのこころもカチンとせずにはいられなかった。 ――は? は? はぁ? 何なの! 誘ってきたのはそっちじゃない! 意味分からない! 男から距離を取り、地面に視線を落とす。 ――この男の言葉に反応してはダメだ。平常心を持て。私は誰、あの若葉こころでしょ。惑わされてはならない。ねぇ、そうでしょ。 「マジにとってんなよ。女なんて掃いて捨てる程いる中で、よりによってあんたみたいな女を俺が相手にするわけないじゃん。あんたのこと、試しただけだから」 「それは残念で、」 「心にもないことを。それより、喜べば。ここにはあんたが好きそうな貞操観念低めの野郎がうじゃうじゃいるからさ、あんたも後腐れなく遊び放題じゃん? あ、でもさっきみたいに彼氏持ちの女に手出したら色々厄介だからさ、彼氏の有無ぐらい確認するのをおすすめするよ。あーけどあんたはそんなの関係ないんだったよね。余計なお世話だったね」 ベラベラと、良く回る口だ。その大半がこころを罵る内容なのだが。爽やかな顔立ちのくせして、毒しか吐かない。 人を見た目で判断するべきではないと言うのはこころ自身が一番身に染みていることなのだけれども、そのナリで言葉攻めされるのは中々のダメージがある。 刺々しく、心臓を針で突かれているような気分にさえなってくる。 「……貴方って、随分性格曲がっているのね」 「俺はイイ人です、なんて一言も言ってないけど」 ――そうだけども!
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