運命Ⅲ ―一線を越える時―

3/11
前へ
/2039ページ
次へ
 設備自体にそこまでお金は掛けていない為、室内防音は、ほぼ皆無。  よって、扉に背中を預け、聞き耳を立ててしまえば、中のやり取りを把握するのは容易い。  恋人と言っても、無防備にベッドに横たえるこころを託したのだから、最後まで事の次第を見守る責務がある。  なんて、体のいい大義名分を掲げているだけであり、盗み聞きをしている事実は変わらない。  湊に想いを寄せておきながら、どんな風に他の男性と接するのか、どうしても気になるのだ。  薬で思考回路を狂わされているのならば、尚更に。 「こころ……大丈夫か?」 「ん……胸元が、苦しいの。陽、お願い、助けて……?」 「…………、」  微かに息を飲む音が、聞こえた。  ギシリ、ベッドのスプリングが軋んだ。  中で少々"過激"な行為を致しているのかもしれない。  だけども我関しない。  第一これは、恋人同士の極々平凡な、戯れ。  お互いが同意の上で成り立った事柄なのだから、外野がいちいち首を突っ込むのは、野暮と言うもの。  そう、例え正気に戻った彼女が、後に猛烈な後悔の念に囚われようとも、知ったことではない。 「……ん、もっと、脱ぎたい……」 「……おい、これ以上は、」 「陽は、私の彼氏、だよね……?」 「……あぁ」 「は……ぁ……もう、熱くて、限界……」  ーーパサリ  衣服が床に、落ちた音がする。 「……こころ、本当に、いいんだな?」  彼も、事が終わった後、自己嫌悪に陥る彼女を気遣い、そんな最終確認をしてきた。  余程、大切に想っているのだろう。でなかったら、好きな人に誘われた時点で、欲望に忠実となっている。  湊にも、彼にも、類い稀に見ないレベルで寵愛を受けているのが、妬ましくて、憎らしい。 「……ユイだって、みなとくんに触れてもらいたいよ」  脳裏を過るのは、数日前、唯花の元を訪れた、華やかな笑みを浮かべる、綺麗な女性。  
/2039ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3477人が本棚に入れています
本棚に追加