運命Ⅲ ―一線を越える時―

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 こころと同様に、とても容姿の整った女性だった。  前髪が下ろされた、ウェーブがかった黒髪は、緩やかに吹く風に靡き、唯花の眼前でふわりと揺れる。 『ーー人が、恋に溺れるのは、脳内でPEA(フェニルエチルアミン)というホルモン濃度が上昇することで、脳が快感を示しているからなんだって』  脈絡なく、唐突に語り出す内容に、着いていけず、置いてきぼりを食らう。  見目が麗しい、残念な人に絡まれた。働く社会人として、大人の対応を心掛けようと、そう決めた時……。  端整な唇が、愉悦に笑いを型どった。ゾワリと全身が総毛立つような、謎の寒気に襲われる。 『だからさ、快感が強ければ強いほど、裏切られた時の反動は大きなモノになっていくんじゃないかしら』 『……、あの、貴女誰ですか?』 『名乗るほどの者ではないわ。ただ何も知らされていない哀れな子羊に、慈悲の手を差し伸べようと思ってね』  女性の手には、数枚の写真。唯花の瞳が、極限まで見開かれた。  言い逃れは出来まい、決定的な場面が鮮明に映し出されていた。 『合成……?』 『に、見える? 物凄くリアリティー溢れているでしょ?』 『…………っ』  大好きな人が、自分以外の女と淫らに唇を重ねている。駐輪場と思われる場所で、抱き合っている。  交際を始めて、まだ一度たりとも彼と"そういう"行為をしていないのに。  信じたくない。彼は、二人きりの時、唯花のどんな我が儘も聞いてくれる。突然の呼び出しにも、応じてくれる。  甘やかされている自覚はあった。  ただ、言ってしまえば、それだけ。  女性としては、見られていなかった。 『みなとくん、あの子には、こんな顔するんだ。これじゃ、どっちが恋人だか分かんないよ……』 『うふふ、ねぇ、悔しくないの? 二人して、貴女を裏切っているのよ? 許せなくない?』 『………………』  他人の、口車に乗っては駄目。仮に、この女性がどちらかに、恨みの感情を抱いているとしても、この人の話に加担した瞬間、己さえも身を滅ぼす。  人を呪わば、穴二つだ。 『復讐、したくないーー?』  唯花は、誰のことも、嫌いになんか、なりたくなかった。  
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