運命Ⅲ ―一線を越える時―

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 その日、唯花は彼にメールをして、約束を取り付けた。  会いたいと要求すれば、二つ返事で了承する彼。  待ち合わせ場所に唯花よりも早く到着した彼を、通行人はチラチラと頬を染めつつ見ていく。  絹糸のようにサラサラなオレンジの髪を片耳に引っ掛け、色白で中性的な顔立ちをした彼は、雑誌の表紙を飾れてしまう位、男前。 『みなとくん! 待った?』 『うん、大分ね』 『もうっそこは嘘でも首を横に振らなきゃ!』 『俺に、どこにでもいるような、バカップルとおんなじような言動を取れと? 爽やかな笑顔を振り撒いて? 予定時刻を一時間以上もオーバーしておいて、心にもない台詞を吐けばいいの? せめて連絡ぐらい入れるでしょ? 社会人としてどうなの、それ。 でもまあ、唯花さんがお望みなら、俺は喜んで偽善者の仲間入りを果たすよ。えーと、なんだっけ? ーーああ、そうそう、全然、ちーっとも、待ってないよ』 『ごっ、ごめんなさいぃぃ!!』  秒速で謝罪した。  ノンブレスで捲し立てる彼は、一日一回、皮肉を交えなくてはいけないのだろうか。  無論、遅刻をした唯花が悪いのだが。  恋人に昇格しても、毒吐きマシーンは健在。今日も変わりなく、通常運転。  ある意味で、安心する。  人はーー疚しい気持ちがあると、途端に優しくなるものだから。 『唯花さん、今日は、どこ行きたい?』 『っ……じゃあ、二人きりになれる、静かなところ』 『……いいよ』  色気もへったくれもない、精一杯の唯花の誘いは、通じたのだろうか。彼の背中を追う足取りは軽くなる。  何度も乗ったことがある、バイクの後ろ。  そこはもう、唯花"だけ"の特等席だ。  バイクで走ること10分。行き着いた先は、カラオケ館だった。  予想外のチョイスに、虚を突かれる思いで彼を見上げる。  凄艶な笑みを顔に貼り付けた彼は、ピンと二本の指を突き立てて、喋る。 『静かではないけど、二人きりになれるでしょ。それと、この間唯花さんが、カラオケ行きたいって言ってたから』 『……っあ、うん、そうだったね。よぉし、みなとくん、折角来たんだから一曲も歌わないのはナシだからねっ!』 『はいはい』  深い意味はなく、何の気なしにした話を、覚えてくれていた。  そんな些細なことが信じられないぐらい、嬉しかったのだ。
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