接触Ⅰ ―オレンジ―

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古今東西、これ程までに腹立たしく感じた男、否人間はかつていただろうか。 いくら自分の噂を鵜呑みにされているとは言え、ここまで初対面の人に言われたくはない。 この甘いマスクに一体何人の女が絆されるのだろうか。 そして、泣かされるのだろうか。 一種の詐欺だ。 外見詐欺。 爽やかな優男と思いきや、口を開けば魔王降臨。 騙される方が悪い。いやいや誰もが騙されるって。こころ自身も含めて。 「でしたら、これから私のことは空気と同等の扱いを。‘男なんて掃いて捨てる程いますから’」 男が先程こころに向けて言ったことをまんま返す。 それに、男は微かに口元を引き攣らせたのをこころは見逃しはしなかった。 お返しと、やらしく笑ってみせた。 チ、と男は機嫌悪く舌打ちを。 ――だから、その顔でその態度はよしてってば。 どんな表情をしようとも、元が爽やかってことは変わらないのだから。 「是非、そうさせてもらうよ」 にこり、一般の女子なら失神してしまいそうな笑みを男は作る。 こころはこの時、この男とはこれっきりだろうと考えていた。 しかして、これは始まりに過ぎなかった。 運命の歯車は急速に回り出す―― この出会いが、どうこころに影響をもたらすのか それはまだ、誰にも分からないことだった。
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