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古今東西、これ程までに腹立たしく感じた男、否人間はかつていただろうか。
いくら自分の噂を鵜呑みにされているとは言え、ここまで初対面の人に言われたくはない。
この甘いマスクに一体何人の女が絆されるのだろうか。
そして、泣かされるのだろうか。
一種の詐欺だ。
外見詐欺。
爽やかな優男と思いきや、口を開けば魔王降臨。
騙される方が悪い。いやいや誰もが騙されるって。こころ自身も含めて。
「でしたら、これから私のことは空気と同等の扱いを。‘男なんて掃いて捨てる程いますから’」
男が先程こころに向けて言ったことをまんま返す。
それに、男は微かに口元を引き攣らせたのをこころは見逃しはしなかった。
お返しと、やらしく笑ってみせた。
チ、と男は機嫌悪く舌打ちを。
――だから、その顔でその態度はよしてってば。
どんな表情をしようとも、元が爽やかってことは変わらないのだから。
「是非、そうさせてもらうよ」
にこり、一般の女子なら失神してしまいそうな笑みを男は作る。
こころはこの時、この男とはこれっきりだろうと考えていた。
しかして、これは始まりに過ぎなかった。
運命の歯車は急速に回り出す――
この出会いが、どうこころに影響をもたらすのか
それはまだ、誰にも分からないことだった。
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