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男と別れたこころは、一年の階の廊下を歩いていた。
結局入学式に出ることはなかった。
もう式は終わっているのだろうか、そう思うぐらいに廊下に人が多々見られる。
まあ、ここの生徒が素直にただジッと座って理事長やら教師やらの話を聞くと言うのも考えがたい話だ。
どのみちその辺りはこころにとって然程重要ではないにしろ、この視線の数はどうにかならないものか。
完全に動物園のパンダ状態だ。
表には出すことはないが、これは結構なストレス。胃がキリキリと痛む。
平常心どころか頭を空っぽに、無心でいようとしなければ今にでもぶっ倒れそうだ。
と、その時。
「こころーっ!」
安心を暗示させる声がこころの耳に届いた。
振り返れば、やはりそこには馴染みある彼女――梨磨の姿が。
髪を振り乱し、ダダダとこちらへ走ってくる様を見てこころの中に罪悪感が生まれる。
――また心配、掛けさせちゃったな。梨磨も私なんかのために無駄な体力使わなくて良いのに。
「梨磨、クラスどこだった」
「あ、1-Aよ。私達、同じクラスみたい……ってそうじゃなくて! あんたどこ行ってたのよ!?」
「良かったー、梨磨以外の人と仲良くなれる気しないもの」
「こころ!」
「……ごめんなさい」
無理に話題転換を試みたこころであったが、そんなんで梨磨の気が逸れるはずもなくキッと睨みをきかされた。
この分だと梨磨はこころのことをずっと探していたのだと考えられる。
ますます悪いことしたとこころは眉を垂れ下げた。
それを見た梨磨は盛大に息をつき、どこか適当な空き教室の中へこころを連れて入った。
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