接触Ⅱ ―危険な奴等―

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「こころ、何があったの? お願い、話して」 「…………」 「目を離した隙にいなくなって、心臓止まるかと思ったんだから……」 こころを前に、ドアを背に梨磨はそう懇願した。その他大勢から見れば大袈裟な比喩表現に思えようとも、梨磨は至って真面目であるし、こころだってソレを鼻で笑い飛ばしたりなんてしない。 この二人の間柄に、冗談で済ませられることなんて何一つ存在しないのだから。 こころは梨磨が掲示板に足を向かわせている間に上級生達に囲われ、人気のないところに連れ出されたことを話した。その間5分足らずと手短であったのにも関わらず、梨磨の神経を刺激する要素としては申し分なく。 「てことはその頬もそいつ等が……?」 「まあ……」 わなわなと拳を震わせ、だんだんと目が据わっていく梨磨に歯切れの悪い返事をこころは返す。梨磨の洞察眼は侮れないことを長年の付き合いからこころは分かっているため、ここで下手に嘘はつけない。 「……こころ、そいつ等の顔覚えてる?」 「えっと、んー、よく覚えてないな」 これは本当。彼女達に些か失礼な話だが、印象に残る程の面影はなかった気がする。それよりも、その時の情景を思い起こせば起こす程こころの脳裏に浮ぶのはあの男の爽やかな笑顔だった。 こころはあの女達よりかあの男に対して腸が煮えくり返るような思いを抱えていた。 「そう、ならいいわ」 こころが女達の顔を覚えていない以上、梨磨がどうこうするのは不可能なこと。 だからこの話はこれにて終了、とこころは安堵の息をついた――はずなのだが。 「しらみつぶしに探してやるからっ」 憎憎しくそう吐き捨てた梨磨はクルリと踵を返し、凶悪な表情を最後に見たとあればそれを安々とこころは見逃すことが出来ずに彼女の腰に自身の腕を巻きつけて全力で待ったをかけた。 梨磨ならやりかねない、いや間違いなくこれからそうするだろう。何事も有限実行なのは彼女の十八番だ。
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