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本人が終わりと言っているのだからそれで良いではないか、そんな道理は梨磨には通用しない。
梨磨はこころのことをよく理解している。だからこそ、黙って見過ごすわけにはいかないのだ。
彼女としてはもっと自分を頼って欲しいのに、どうしたってこころは親友の自分にだって中々弱い部分を見せようとしない。
それどころか、自分に対して申し訳ないと言う気持ちを持ってしまう。
そんなことないから、と梨磨が優しく宥めても、それさえもこころからしてみたら‘気を遣わせている’に変換されてしまうのだ。
だけど、梨磨は知っている。
こころが本当は人一倍繊細で、傷付きやすく、壊れやすいと言うことを――……
「離してっ私の気がおさまらないのよ! これはこころのためじゃないわっ私が私を納得させたいの!」
そうは言ってもこれは十中八九こころを思ってのこと。
だけど、そうでも言わなければこころまた己を責め立てる。
いや、そんな梨磨の心情さえ既にこころは見通しているのか――
そこで、こころはあることに気が付いた。
「っ! ち……、」
「え……、」
「血……! 梨磨、手!」
あまりにも強く握った拳の隙間から、タラリと赤いモノが皮膚を伝っていくのをこころは青ざめた顔で見ていた。
当の本人は然して動揺を見せることなく「ああ、血ね」と顔色一つ変えない。
それでもこころにとっては見ていて気分が良いものではなく、慌てて女の子らしく所持してあるハンカチをスカートのポケットから取り出して彼女の患部にあてがう。
その形の整った鋭利な爪が食い込んだ故の結果なのだけれど、こころは自分のことのように口元を歪めている。
そんな顔を見てしまえば、先程確かにあったはずの怒りも遥彼方へと飛んでいき、梨磨はもう一方の手をこころの手に重ねて。
「帰ろっか」
鬼のような形相をなくして穏やかにそう言った。
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