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翌日、こころ達は本当に学校へは行かなかった。水城宅にて落ち着いていた。梨磨の兄である凛二もいて、彼の大学での話しを聞いたり、夕飯をご馳走になったりと、その日一日こころはずっと笑顔だった。
偽りな、控え目な笑みではなく弾ける様な彼女の表情を、梨磨は口元を綻ばせて眺めていた。
その時、学校内では――
「ねぇ、君」
「え、わわ瀬野さん!? 嘘っ」
一人の男がとある教室へと入っていき、近くにいた女に尋ねる。女は男のその華がある容姿に赤面し、彼女がいた教室全体もザワめき出す。
他のクラスの生徒までもが彼を見にと、‘1-A’の教室の周りには物凄い人が。
垂れた目尻は色気を含み、彼がゆるりと口元を緩ませば周囲は惚れ惚れと息を漏らす。
だが次の瞬間、男の一言によりガラリと空気が変わる。
「若葉こころって、このクラス?」
「え……、」
何故、彼がそのようなことを聞くのか。
まさか――
女は顔を強張らせながらも小さく頷く。そして、次に男が繋げるであろう言葉に耳を傾けた。
「じゃさ、ちょっくら呼んでもらえる?」
「っ……、あの、今日は来てません」
この男も、あの女――
女はなんとか声を振り絞って返した。
「あーそうなの? ちえー、つまんないの。んじゃまた後日改めるわー」
唇を尖らせて、男は爆弾だけ投下してこの場を後にした。
その直後、教室内にいた大半の女子生徒は殺気を漂わせ、男子生徒はその禍々とした空気に耐えられず教室を出て行った。
「なんなの! あの女!」
「さすが男好きね! まさか瀬野さんにまで色目使っていたなんて! 許せない!」
「私だって瀬野さんのこと好きなのにー!」
「本当いい性格してるよね。まあ、あの人の場合遊びだと思うけど」
「あはは、言えてる。相手が悪かったね。本気になって捨てられちゃえばいいんだ」
口々に言う女子群。
彼女達は甘く見過ぎていた。
こころのことを――……
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