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朝、梨磨がこころを迎えに来て、それをこころの母親に見送られてのいつも通りの日常。
そう、学校に着くまでは思ってた――
校舎、いや校門をくぐれば何人かがこころを見ては囁き合っている。それに少々こころは違和感を抱いた。
そして、それは自分の教室へ歩を進めれば進める程に、よく分からないこころの中でのモヤが広がっていった。明らかに昨日に比べて憎悪のある眼に、昨日自分が学校行っていない間に何かあったのだろうかとこころは思い始める。
梨磨もこの異様な雰囲気に眉を寄せ、周囲に睨みをきかす。見てんじゃねえよ、と。
教室に入れば、一斉に皆が皆こころに視線を集めた。特に女が目を尖らせて、敵意がまる分かり。
――何だって言うのよ。
「そう言えば、席ってどうなってるの?」
「あ……、」
こころが梨磨にそう聞けば、梨磨もクラスだけ見て、教室には入っていないみたいで分からないらしかった。
すると、梨磨はたまたま視界に入れた灰色がかった髪色の少年を小突き。
「席って自由?」
堂々とした振る舞いで尋ねた。こう言う彼女の男気があるところがこころは好きだ。
少年はクラスメイトの会話を中断させ、梨磨の方を向く。と、こころの方をチラリと見て一瞬驚愕した面持ちをするも、ヘラリと無邪気に笑って。
「決められてるみたいだよ」
気分良く答えてくれた。見え隠れする八重歯に、純粋そうな笑み。こころはこの少年にそこまで嫌悪を持たなかった。
「水城さんがあそこで、若葉さんがあっち」
「こころはともかく、何で私の名字まで……」
「何言ってんのー。水城さんも十分有名人じゃん!」
そう、梨磨とてこころ程ではないにしろ十二分に心惹かれるモノを兼ね揃えている。機敏に、気丈に、人に流されない。そんな彼女に憧れる人だって少なくない。
こころばかり注目視されて引き立て役のような流れになりつつあるが、それは大いに間違っているのだ。
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