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それにしても、とこころはがっくし肩を落とす。こころと梨磨の席は中々に離れていたのだ。決められているのだとしたら隣通しになる確率はほぼゼロに等しいにしろ、列二つ分離れているのは痛い。
どうやら出席番号順ではないらしい。なんせ、若葉の「わ」と水城の「み」は高確率で列が隣通しになるのだから。
校風が適当だと席順も適当になるものなのか。
列二つ分と言うことは、授業中話すこともままならない。その上、梨磨は真ん中の列の一番前。そしてこころは窓際の一番後ろ。遠い。遠過ぎる。
さすがに大声で呼びかけるわけにはいかないだろうし、と再度こころは項垂れるのであった。
「てか水城さん俺の前じゃん! これからよろしくね!」
梨磨あてに手を出して握手を求める少年がこころは犬っぽく見えてしまった。
その愛嬌たっぷりの笑みに、梨磨でなく周りの女達がキャーキャーはしゃぎ出した。
この時初めてこころはじっくり少年のことを見た。
身長は170は超えたぐらいで男にしては平均的。
アッシュブラウンの髪を、無造作に整えている。
奥二重で、大人びた顔つきをしているのに笑うと反則なことに可愛いのだ。
「俺、黒木冬雅(くろきとうが)。二人共冬雅って呼んでね」
「黒木、あんた昨日学校来てた?」
遠回しながらも冬雅の申し出をバッサリ切った梨磨はそのような質問をぶつけた。
冬雅は然程傷付いた様子を見せることなく、「来てたけど、……ああ!」と突如声を上げた。
「ちょっと吃驚したじゃないのよ!」
「事件だよ大事件が起こったんだってば!」
そう言って冬雅はこころの方を見て、困ったような顔をしてみせる。
どうやらやはりこの事態の中心にいるのは自分であったようだ。
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