接触Ⅲ ―瀬野蜜夜―

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冬雅は何故、自分のことを軽視してこないのだろうか。こころに対して浴びせられる視線は二種類。軽蔑を含んだ視線と、欲を孕ませた視線。 そのどちらでもない。どちらかと言うと、梨磨と同じような目だ。 ――油断、させようとしているのだろうか。 彼の笑みには一切の悪意も感じられなかったのだが、どうしてもこころは警戒してしまう。 初対面の男に対して安々と心を開けるわけがないのだ。 「もう直ぐで先生来ると思うから、自分とこの席についてるね」 「こころちゃんは真面目だなー。そんなの来てからでいいのに」 昨日始業式だからと言ってサボッた人間に真面目言うかとこころは思ったが、周りを見渡せば相変わらずガヤガヤしている。この分では担任が来たとしても静かにはならないだろう。 こころは自分の隣の席の人がどうかまともな人種でありますように、と願いを込めて自席についた。 チラッと横目で隣を確認すれば、顔を伏せて眠る茶髪の彼。 茶髪と言っても程よく明るいハニーブラウン。寧ろこの学校では彼以上に派手な色した髪はたくさんいるため場に馴染んでいる。 それから直ぐにこころは彼から視線を外すが、隣で起き上がる気配を察知。 ――このタイミングで? 顔を起こした彼は眠そうに欠伸をしている。 一昨日の外見だけ爽やかな男と言い、そんなに眠いのなら家で寝ていれば良いのにと度々こころは思う。 「あれ、」 と、横から彼の視線をヒシヒシとこころは感じた。 「ねぇ、君が例の子?」 自分に話しかけていると取って間違いないのだろうけど、そう聞かれて返答に困る。 そうです私が例の子ですと返すのもどうかと思うわけで……
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