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体の向きはそのままに、こころは顔だけそちらへ向けた。するとどうだろうか。こころは目を見開いて、硬直した。
「ん? 俺の顔に何かついてる?」
「あ、いや……」
彼は首を傾げてそう聞くも、平静を装ってこころはそう答えた。
――だって……
表に出さないだけで、こころは動揺してた。
くっきりとしたラインの二重の瞳は切れ長く、涼しそうな目元。
目鼻立ちが整っており、その甘いマスクに教室にいる何人かの女が頬を染めている。
つまりは、またとない爽やかな容姿をしているのだ。
とてもじゃないが、ここの学校の生徒とは思えない。
だが、とこころは努めて冷静に見極めようとしていた。あのオレンジの男よりも上をいく爽やかではあるものの、そんなのは所詮見掛け倒しで、この男も内面はズバズバ言うような無神経なタイプなのではないのだろうか。
思わずお年寄りに席を譲るそんな場面が想像出来てしまいそうな、あんな笑顔で阿婆擦れ言われればそれはもう心に1000のダメージは食らうと言うもの。下手な先入観を持つべきではない、とこころはあの時学習したわけだが。
「若葉さんが俺の隣って分かって、なんだか凄い緊張したけど宜しくね。俺、麻生和樹」
その虫一匹殺しませんばりの笑みは本物で、外見を裏切らないその爽やかぶりにこころは感動した。
――あの男は偽者だ。偽者の爽やか少年だったんだ。
本物を目の当たりにしてしまえば、こうも思いたくなるだろう。
「よ、よろしく……」
本音を辿れば友好を深める気はこころには1ミリとてない。建前、社交辞令程度にこころは和樹に笑みを送った。
梨磨の方を見れば、彼女は先程知り合った少年、冬雅と会話をしてた。と言っても冬雅が一方的に話しかけているだけで、それを梨磨が適当に相槌打って軽くあしらっているのだが。
端から見たら何とも上下関係がハッキリとしている絵図が出来上がっている。
――あらら、梨磨、気に入られちゃったのね。
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