接触Ⅰ ―オレンジ―

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 元はここではなく、進学校へ行く予定だった。  内申はしっかり取れていたし、推薦も単願で順調に事が進んだ。  ならば何故、そのままそこに行かなかったのか。  それは、とある事件によるもの。  思い出したくもない、あの禍々しい過去……  二人にとってこれ以上ないってぐらいの黒い染み。汚点。  歩くこと30分。  ようやく着いたそこは、予想以上に大きな校舎だった。  まあお世辞にも綺麗とは言えないけど。    すると、何人かの生徒達はこっちを見ては囁き合っているではないか。  その内容はこころに聞こえ……否、聞かせるように、憎悪の感情を遠くからぶつけてくる。 『ねぇあれって……』 『だよねだよね!? 化粧濃くなった?』 『うわムカつくー。あの女のせいでうち彼氏とダメになったんだけどー』 『つか何であいつがこの学校にいんの?』  思わず耳を塞ぎたくなるような内容。  けれど、そうしないで素知らぬ顔を貫くこころの神経は焼き切れているのだろうか。  違う、そうじゃないんだ。  自分の悪口を聞こえるように言われ、何も感じないわけじゃない。 「こころ……」  口々に好き勝手言う女達を梨磨は一瞥した後、彼女は眉を垂らして心配気に声を掛ける。  猫目でつり目なきつそうな美人。実際梨磨が女達に睨みを聞かせればパタリと止んだ雑音。  優しいのはこころ限定。まるで自分のことのように気に掛けてくる梨磨にこころは力なく微笑んだ。 「私は肯定もしなければ否定もしないわ」 「……事実無根じゃない」 「そうね。でもいいの。信じてくれる人が一人いればそれで……」  そう言うと、梨磨は眉を寄せて口元を歪めた。  せっかくの美貌が台無しだ。  信じてくれる人、それはここにいる。  梨磨だけは裏切らないと、こころは信じてる。  ここまでこの人間味のない美しさを持つ少女が信頼を寄せるのはどこを探しても梨磨しかいない。  校舎の中に入って直ぐの場所の、掲示板には自分達のクラスが貼り出されていた。  あまりの人の多さに、背が低いこころは後込みしてしまう。 「私が見てくるから、こころはここにいて」  なので、梨磨のこの言葉に素直に甘えることにした。  (良いなぁ丈があるのって)  
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