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「あら、もうこんな時間なの。遅くまで付き合わせて悪かったわね」
携帯のサブスクリーンを見ると、七時を過ぎていた。そこまで遅い時間じゃないのに若干申し訳なさそうな顔をしている。
「咲真が楽しかったならそれでいいよ」
「……あんたはそういうセリフを、よく恥ずかしげもなく言えるわよね」
「何がだ」
軽く疑問形で返すと軽く頭を小突かれた。それにやり返すようなテンションは私には無い。されるがままである。
ただのんびりといつも通り、咲真の女子トークを私がずっと聞いていた。これがいつもの私たち。
私が聞き手で、咲真はずっと私に話をしてくれる。それが楽しいから、話すよりも聞くことに徹しているのだ。
そんな感じでいつもと全く変わらず、最後に別れる十字路の手前へとやって来た。そちらへ渡る為に、横断歩道に一歩足を踏み出そうとして、
信号が、赤に変わった。
咲真は話すことに夢中で、信号に気づいていなかった。そのまま横断歩道に足を乗せていたから、危ないぞと呼び止めようとして手を伸ばした。
その瞬間、咲真に向かって突っ込んでくるトラックが視界に入った。くるりと振り返った咲真がトラックに気づき、目を見開いて真っ青になった。
考えているうちに、私の足は地面を強く蹴っていた。ふと、前もこんなことがあったな、と思った。
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