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景色がゆっくり流れていく。
視線の先にはトラックの運転手の焦ったような表情。恐怖の色を孕んだ、絶望的な表情。
死ぬ間際って、こんな普段見えそうにないのも見えちゃうんだな。そんなつもりなんてなかったんだ、って言うのがよく分かる。
トラックが思い切りぶつかり、一瞬にして身体全体に衝撃が行き渡る。真横からぶち当たり、頭も打ちつけたのか目の前がわずかに白んだ。
あまりの痛みに声が出ないまま、私は地面に叩きつけられた。その衝撃のせいか、まともに息を吐き出すことが出来ない。
死ぬほど痛いと思いながら、咲真は無事なのかを見ようとした。けど身体は動かなかった。骨、折れたんだろうな。
白んだ視界が元に戻る。どうやら私はトラックの目の前に落ちてしまったようだ。
そのトラックは物凄い音を立てて急ブレーキをかけながら、私を避けようとしたが止まらなかった。
「有里弥ああああああああああああ!!」
咲真の張り裂けそうなほどの叫び声が、私の耳に届いた。ああ、よかった無事だったんだ。安心感で一気に身体から力が抜けた。
私は、もう助からない。身体には力が入らないし、死ぬ間際の高速で働く頭の回転に身体はついていけない。
咲真を残して逝くのが心残りではあるが……咲真なら大丈夫だよな。
「げん、きで、な」
最後の最後に聞こえたのは、自分が潰る嫌な音だった。
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