出会い

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「すいません、ボス!行ってきます!」 少年は、慌ててわたしの手を取ると、笑い声で包まれたアジトを飛び出した。 「おい、あんたの家、どこだ?」 少年は、突然立ち止まったと重うと、振り返って尋ねた。 わたしは、辺りを見渡して、自分の家を指差した。 まさか、こんなに近いとは知らずに。 「…案外近いな。ま、いいや、送ってくよ。」 少年はそう言うと、サッサと歩き出した。 わたしも慌てて後を追う。 「ま、待ってよ!名前は悠哉君?」 「名前は悠哉だ。悠哉君じゃねえよ。」 わたしの問いに、冗談なのか本気なのかわからない文句を返す少年を笑いながら、そっか、とだけ言った。 「ねぇ、悠哉はさっき、何で駅にいたの?」 不意に、わたしは気になった事を尋ねてみた。 悠哉は、暫く黙っていたが、ようやく返事が返ってきた。 「あぁ、あいつ等の気配を感じたからな。」 「へぇ!凄いんだね。」 わたしが、感心していると、いつの間にか家に着いていた。 「ほら、着いたぞ。此処までで大丈夫だよな?」 「うん、大丈夫。ありがとう!」 わたしは、玄関の前で立ち止まった悠哉にお礼を言って、扉を開ける。 「あ、おい!あんた名前は?」 「名前?美香だよ。」 悠哉に、笑顔を向けて言う。 「明日は何時頃学校に行くんだ?」 「うーん、6時には家をでるかな。」 わたしが言うと、悠哉は、少し考えるように、空を見たが、頷いた。 「わかった。俺も、あんたと同じ学校に行くから、その時間に迎えに行く。おやすみ。」  悠哉は、それだけ言うと、方向転換して、元来た道を戻って行った。 わたしは、悠哉が見えなくなるまで見送ると、家に入り、当然の如くお母さんに叱られ、その日は眠りについた。 ーこれが、初めての奇妙な体験。
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