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「それに、俺だって、あいつみたいなとこないとも言えないし。どうせ不良とか言われてんでしょ、俺ら」
なるべく軽く、全っ然気にしてないぜっていう声色で、俺はブラックコーヒーのボタンを押した。
「え、嘘。どうして知ってるの?」
ガコンッと、黒いスチール缶が落ちてくる音と共に、吉野小牧は不思議そうな表情で呟いた。
「知ってるっていうか、予想しただけだよ。コータがそう呼ばれてるの聞いたこともあるし」
「そっちじゃなくて、こっちだよ!」
どっちだよ、と疑問に思いながら、吉野小牧が手を伸ばし俺の右手ごと缶コーヒーを握るのを、俺はまるで他人事のようにぼんやりと見つめていた。
右手が柔らかい感触に包まれ、吉野小牧の温度が俺に伝わってきたところでやっと、俺は今どれだけ幸せな状況に陥っていたかを理解した。
「な、吉野さん!?何を……」
「私の好み、知ってくれてたんだね~。そうなんだ、私、ブラックのコーヒーが大好きなの。よく変わってるって言われるんだけど、嬉しいな~、大吉くんが知っててくれたなんて」
流石、有名人ということなんだろうか。
自分の好みを相手が知っている可能性が万に一つでもあると思ってる辺りが。
ま、確かにブラックコーヒーをわざわざ好んで飲む高校生なんて少ないけどさ。
まさかこんなところに同志がいたとは驚きだ。
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