ある意味運命的な恋

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  「うるせぇ、性悪中年。ランチタイムだってのにコーヒーだけの注文でテーブル席陣取りやがって。常連なら空気読んでわきまえるだろ普通」 しかも、今日に限って愛犬すら連れて来ていないとは。 休日に来ること自体珍しいし、一体何しに来たってんだこのおっさんは。 「おい、マスター。お宅の息子が反抗期だぞ。ちゃんと客に敬意を払うくらいのしつけはしておけよ」 「ごめんなさいね、忙しい時にコーヒー一杯しか注文しないような客に払う敬意なんかないってことくらい、教えなくても分かるのようちの息子は。あなたと違って出来がいいから」 とりあえず注文は全部さばききり手が空いたようで、母さんはカウンターから出ると、タバコを取り出しながらそんなことを言った。 「おいおい、それが客に対して言う言葉か?いいよな、個人営業は勝手できて」 正面の席にドカッと座り込み、図々しくタバコを吹かし始めた店主を見て、光一さんは苦い顔をしながら呟いた。 全席喫煙OK、犬のリードはドッグラン以外で外さぬようにがルールの当店では、タバコが苦手な光一さんがこういう顔をするところはしばしば見られる。 「ていうかさ、光一、本当に何も注文しないの?お昼まだなんでしょ?」 高校時代、よほど素晴らしい時を共に過ごしたらしく、この二人の間に遠慮はなく、四十代になった今でもこうしてしょっちゅう顔を合わせるくらい、母さんと光一さんは仲が良い。 だけど実は、俺は知っているんだ。 この、幼い頃から父親のように慕ってきた人物こそ、俺の実の父親なんだってことを。
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