第百十六章 藤黄の鎌

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 静久は壁に激突するかと思われた瞬間にその身を翻して壁を蹴り、華麗にターンを決めて方向転換して見せる。  そんな彼の咄嗟の動きには追尾誘導の力を持った鉄球ですらも対応し切れず、壁に勢い良く激突して深々と減り込んで行く。 ―これで、鉄球は身動きは取れませんね…  土宮家の嫡子はそんな思考を脳内で過ぎらせながらも、阿修羅鎌を振り翳して唐梨子へと窮迫しようとする。  だが、その瞬間、ナイト・オブ・フィフティーツーの称号を持つミュータントの女性の口許に凶悪な笑みが滲む。  そして、まるで堰を切ったかの様にして彼女は叫ぶ。 「弾けな、山荒!」  唐梨子の叫びに呼応するかの様にして、藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年の背部に凄まじい程の衝撃が無数に叩き付けられ、グラリ、と彼の身体をふら付かせる。 「…ッ」  静久は自身の背部に発生した痛みに表情を歪ませながらも、徐に自分の背部へと手を当てて弄った。  すると、彼の指に、コツン、と言う擬音が似合いそうな、何か硬い物が触れた。  一瞬、土宮家の嫡子はそれが何かと思った。自身の身に纏う漆黒のロングコートの腰周りの装飾のベルトの金具かとも思ったが、位置的に可笑しいので、それは無いだろう。  藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年はその硬い物を手にして、確認するべくそれを顔の近くまで持って行く。  それは黒い鉄のトゲだった。不倶戴天山荒の鉄球に敷き詰められている鉄のトゲ。まるで鉄球本体から切り離されたかの様にして、自分へと飛んで来たかの様だった。  静久は徐に、壁に深々と減り込んでいた鉄球へと振り返り、それを確認すると、その鉄球は全てのトゲを失い、丸くなっていた。
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