第百十六章 藤黄の鎌

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「生憎、僕はゲームを楽しむなんて事はしませんが、見す見す勝ちを逃す様な事はしない主義なんです」  キリッ、とした凛々しい表情を浮かべて得意気に物語る静久に対し、パグ太郎は何とも困惑した様な表情を浮かべてしまった。  少しばかり、厄介な人物とペアを組んでしまったと思わざるを得なかった。  土宮家の嫡子は第二世代のASドライヴ搭載者候補の面々の中でも、気難しい性格をしていると主であるミュータントの少女月村月美から聞かされてはいたが、これ程とは思いもしなかった。  ゲームを楽しむ様な拘りは見せないが、敗北と言う屈辱的な座に就くのは御免な為に、あらゆる手段を用いて勝ちに行く。  たとえ、卑劣と罵られようとお構い無しに。 「もうええわ。アンタとしりとりやっとっても、楽しく進められる自信があらへん。止めにしようや」 「それは良いですね。僕も飽き始めていましたから」  パグ太郎の疲労感に満ちた申し出に対し、藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年は満面の笑みを浮かべて応えて見せる。  それに驚愕し、小型犬の阿修羅尾獣は思わず唖然としてしまう。 「アンタ、あれで飽きとったんかい…!? あれだけ、勝ちにいっとったのに…!?」 「ええ、まあ」  静久はそう応えた直後、何者かの気配を感じ取って進路をほんの少しずらすべく、横へと二三歩程移動する。  そんな彼の動作に疑問を抱きながらも、パグ太郎も彼に追従して行くべく、進路をほんの少しずらした。  その直後、横合いから飛来して来た、重量のある何かが、先程まで彼等がいた空間へと姿を現し、床を粉々に撃ち砕く。 「…ッ!?」
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