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その光景に驚きを覚え、パグ太郎は愕然としてしまうが、静久は至って平静その物で動じた気配一つ見せない。
「何や…!?」
「落ち着いて下さい、単なる敵襲ですよ。名乗りも上げず、姿を見せる事も無い、騎士道精神の欠片も無いお方の様ですね」
驚愕に戸惑うパグ太郎を諭すかの様にして、土宮家の嫡子は落ち着いた口調で言いながらも、小型犬の阿修羅尾獣の頭を軽く撫で付けてやる。
藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年は、床を粉々に撃ち砕いた攻撃の正体を確認するべく、粉塵が漂う空間へと視線を注ぐ。
床に減り込むかの様にして埋まっていたそれは、黒いバスケットボール大の鉄球だった。単なる鉄球ならば砲丸投げの練習でもしていたのか、と日常的な平和ボケした考えも出来るが、残念な事にその鉄球にはびっしりと鋭利な棘が敷き詰められ、鎖が伸びている。
―モーニングスター…だったでしょうか…?
静久はそんな思考を脳内で過ぎらせる。
スパイクの敷き詰められた鉄球を鎖によって棒と繋ぎ、遠心力によって破壊力と殺傷力を上昇させる中世頃に用いられた武器、だった気がする。
生憎、土宮家の嫡子は武器にそこまで精通してはいない。御剣の作品のマニアである月村歩は武器の知識に精通しているから、彼がこの場にいれば、正しい知識を持って応えてくれるかも知れないが、今は詮無い事だ。
「チッ…! 避けられちゃったか…。ざーんねーん、せっかく苦しまない様に、何が起こったかも分からないまま、楽に殺して上げようって言うアタシの寛大さを無下にして…」
鉄球に繋がれた鎖を辿る先から聞こえて来るのは、不機嫌そうな粗野っぽさを感じさせる女性の声が響いて来たので、藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年はその方向へと視線を移す。
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