第百十六章 藤黄の鎌

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 そこには、一人の女性の姿があった。  染髪と脱色を繰り返した事によって傷んだ褐色の髪に、スカーレッドの瞳、濃いメイクが施された顔の中でも飛び切り目を引く濃いアイシャドウ、狂気的な表情の似合う吊り目に、整った容姿を包むパンクファッション。  その女性の手にはメイスの様な棒状の武器が握られており、その先端から鎖が伸びており、その先には例の鉄球が繋げられている。 「もう、こうなったらアンタ覚悟決めなよ? このアタシにグッチャグッチャに磨り潰されて、苦しみ悶えながら死んで行くんだね!」  女性は手にしていたメイス状の棒状の武器を振り上げると、それに呼応するかの様にして鎖で繋がれた鉄球が彼女の許に引き寄せられる。  その直後、女性は振り上げたメイスを勢い良く振り下ろし、引き寄せられた鉄球が再び静久へと飛来する。 「下品な女性ですね」  土宮家の嫡子は冷静にそう呟きながらも、自身の脇にいたパグ太郎の身体を抱き抱えて、その場から後方へと跳躍して飛来して来た鉄球を難無く回避する。 「へぇ…! 上手く躱すじゃないさ…! モヤシみたいな野郎だと思ってたけど、少しは骨がありそうだね…!」  床へと静かに着地する藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年の耳朶に、女性の不遜なまでの声が響く。 「少し、離れていて下さい。危ないので」  静久はその場にしゃがんで抱えていたパグ太郎を床へと下ろし、優しげな口調で諭す様に言って見せる。 「犬っころを気遣うなんて、随分と余裕なんだね…!」  女性は再び土宮家の嫡子目掛けて鉄球を向かわせる。スパイクが敷き詰められた鉄球が、少年の頭部を強かに打ち付けるかと思われた瞬間、鋭い金属音が周囲に響き渡る。
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