第百十六章 藤黄の鎌

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 しかし、女性の表情には一切の恐怖は無い。ハンター連合に勤めてミュータントと戦い、経験を蓄積して来た彼女に取って、自慢の鉄球を回避して距離を詰めて来る敵はそれほど少なくは無い物だったからだ。  それ故に、鉄球を回避し距離を詰めて来る相手への対策も、彼女の中で既に出来ているのだ。 「ハッ…!」  女性はつまらなそうに笑いながらも、手首のスナップを利かせて握るメイス状の武器を振り、鎖によって繋がれた鉄球を引き戻す。  自身へと距離を詰めて来る敵の背後から鉄球が襲い掛かって来る様に計算しながら。 ―この一撃で、背骨をバッキバキにへし折られちまいな…!  女性は狂気的な笑みを口許に滲ませてそんな思考を過ぎらせていると、彼女の予想だにもしない事が次の瞬間に起きた。 「おっと…」  静久は咄嗟にその身を翻らせ、自身の背後から追随して来る鉄球を阿修羅鎌の柄の部分で弾き、振り返った勢いを利用してもう片方の阿修羅鎌で女性を攻撃せしめたのだ。 「ッ…!?」  自身の顔面擦れ擦れを藤黄色の凶刃の切っ先が走って行くので、女性は危機感に表情を引き攣らせながらも咄嗟に身を捩って避ける。  だが、余りに咄嗟の事であったが為に、バランスを崩し、床に背中から倒れる様な形で転倒してしまう。 「チェックメイト」  土宮家の嫡子は静かな口調でそう言って見せた後、何の躊躇いも無しに倒れる女性の顔面目掛けて、阿修羅鎌を冷酷に振り下ろした。 「王手にはまだはえーよ…!」  自身へと振り下ろされる藤黄色の凶刃を目の当たりにしながらも、女性は怒気を孕んだ声で唸る様にして吠えると、手にしていたメイス状の武器の先端の鎖を身構える。
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