ミュータント③

第百十六章 藤黄の鎌

　両手で鎖を握り顔の前でピンと張って突っ張る様に構え、静久の振り下ろす阿修羅鎌の刃を辛うじて受け止めて見せたのだ。

「おや…。どうやら、僕は詰めが甘かったみたいですね…」

　土宮家の嫡子は反省するかの様な口調でそう言って見せた後、鎖で受け止められた阿修羅鎌を握る手に力を込める。

　自身の大鎌を受け止める鎖ごと、目の前の女性を両断しようと目論んでいるのだろう。刀身部に藤黄色の光を放つＡＳ粒子を纏わせ、切れ味を増強させる。

　しかし、どれだけ切れ味を上げさせようとも、阿修羅鎌を持つ腕に力を込めようとも、女性の構える鎖を切る事はおろか、刃を鎖に食い込ませる事も出来ない。

―これは…

　藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年は意外そうな表情を浮かべた直後、女性は不敵そうにほくそ笑んで見せた。

「ホント、詰めがあめぇんだよ…！」

　女性は叫ぶかの様な口調でそう言って見せた直後、手にしていた鎖を藤黄色の鎌の刃へと巻き付けて絡め取る。

「これで、片方の鎌は封じた…！　もう、アンタは思う様に動け…グブッ…！」

　勝ち誇った様な口調で叫ぶ女性の言葉を遮るかの様にして、静久の強烈な右拳打が彼女の腹部へと叩き込まれる。

　土宮家の嫡子は絡め取られた阿修羅鎌をアッサリと、何の未練も無くさっさと手放して、自由になった右腕で彼女の腹部を殴り付けたのである。

　それに驚愕したのか、女性は唖然とした表情を浮かべて、藤黄の支援者と謳われたミュータントの少年を見据えてしまっていた。

　余りに信じられない光景だった。自身が愛用する武器を手放すなんて尋常では有り得ない。鍛練を積み、研磨し、実戦で潜り抜けて来た猛者ならば、それは尚更だ。