水槽で飼われている小さなおっさん

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[ガシャーン]  僕は、一瞬放心状態に陥った。割れたガラスからはとめどなく水が流れでている。  えっ? お、おっさんがガラスを割った? しかも正拳突き一発で?  それを見ていた小さなおっさんを飼っている人はあーあやっちゃったよ、といったような顔で僕を見ている。怒ったら飼い主にも止められないということなのだろうか。  僕をねめつけるおっさん……。僕の頭に死の文字が鮮明に浮かんだ。僕はその瞬間おっさんを蹴って、おっさんが倒れている間に逃げようと思った。が、どこへ蹴っても素手で受け流される、そんな感覚に襲われた。これは、ピッチャーがどこへ投げても打たれるような気がするという感覚と近いかもしれない。  おっさんは、近くの棚に行き何かのビンに手を伸ばした。そのビンを良く見てみるとそこには塩酸と書かれていた。  このおっさん僕を殺る気だ。全身から血の気がスーッと引いて行った。なぜ、この家に塩酸があるのかは分からない。だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。  おっさんはビンを手にし、こちらに向き直した。  瞬間、僕はドアを開け、逃げ出していた。やばい、あいつやばい。僕の動物的本能がそう告げていた。階段を急いで下り、玄関の所まで行き、音がしないように静かにドアを開け、外へ出た。  
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