切捨御免

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========================================================== 「あんた、あたしと同じ眼をしているよ」 男は驚愕した。 よもや遊楽の小娘に、そのようなことを指摘されるとは思ってもみなかったからである。 艶やかな着物には不釣り合いの幼い表情の娘は続けた。 「死にかけの魚のような眼。生きていくのがやっとの魚のような」 あの夜の出来事から三日が過ぎていた。 毎晩、あの老父の瞳が頭をよぎり食事も喉を通らず、生きた心地がしなかったので女の身体に慰めを求めるに至ったのである。 女がこんな突拍子もないことを言い出したのは、男の何かに抵抗するかのような激しい情欲を存分に受け止めてからであった。 行燈の灯は風前の灯であった。
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