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「解せぬな。何故、そのようなことを申すのか儂には分からぬ」
男は再び頭の中に現出したあの老父の顔を必死で振り払い、努めて平静を装い、この四肢の未熟な小娘に問うた。
「理屈なんてないさ。ただ、分かっちまうのさ。あたしとあんた、住む世界は違えど、本質は一緒。心にぽっかりと空いちまった溝を埋めるために、快楽に溺れている」
と、ここまで言って女は口を噤んだ。
男の中の尋常では無い何かに触れてしまったと直感したのである。
男は打ち震えていた。
それが、情事への悦楽によるものでは無いのは明らかであった。
「ああ、そうさ。手前の言うとおり、儂は大切なモンを失くした。命よりも大切なモンをだ。こともあろうに、乞食同然の老いぼれ一人によってだ」
男の語気が強まっていく。
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