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薬室園にこっそりと忍び込む。師範に見つからないように、目を盗みながら進む。入口からクラスメイト達の塊と師範がいるところまでの距離は五十メートルほど。
三十メートル……十メートル……距離が縮まり、あと少しでセレニアの隣に行けると確信したとき油断した。
「セレニア・グラナード!!遅刻は厳禁だ!罰として、そこの薬草10種類を答えなさい」
「ええ!?」
鬼のような形相をした師範が目の前に立っていた。背が高く、メガネがきらりと光るその背景には真っ赤に燃えたぎっている炎が見えた。
「……えっと、手前の赤い花が、ヒナゲシ。ケシ化だが、アヘンが取れることはなく、沈静、催眠、止痛などに用いられています。その奥のピンクの花のマリアアザミは、葉にある美しい乳白色の斑点に由来するもので、聖母マリアの母乳が葉の上にこぼれて斑点になったと言われていて、肝臓や脾臓の諸病に用いられていました。その左の……」
永遠に感じるほどの2分間だったが、師範から出された問題をきっちり全て答えた。学力的には優等生なだけあって、全問正解だった。額に流れた冷や汗を拭って、エレナの隣に立つ。
「ねぇ、セレニア?」
「何?」
「……去年はさ、ずば抜けた成績をとったあんたが、なんでいきなり何もできなくなったの?」
「……なんでだろうね」
ふと、癖毛の強めな黒髪の青年が頭をよぎった。
「……ニア、セレニア?」
「ん?あぁ、ごめん。ぼーっとしてた」
「いいけど、どうした?」
「なんでもない……」
「そか。明日は古文のテストだよ。今日は早く帰って早く寝ようね」
「勉強しよう、じゃないんだね」
セレニアが笑うと、エレナも笑った。
翌日のテストはもちろん、白紙に近いことは明らかだった。
今更だが、彼女たちが通う学園は、国立というだけあって、大きい。故にお金持ちの貴族様がいることはよくあることだった。
そして、もう一つ当然とされていることがある。
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