「あの人」

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その後も、細々としたファッション誌や小説、時にはマンガも買いに来ていた「あの人」が出会い系の雑誌を買ってから半年が経った。  その日も同じように「あの人」は店に来て、店内を一通り徘徊してからレジに来た。今日買うのは、雑誌か文庫か、はたまたマンガなのか。 私はいつものようにレジにて少年誌を広げてはいたが、ばれないように「あの人」の様子を窺っていた。 別段親しいわけでもなく、私と「あの人」は同性ゆえに恋愛感情もない。 ただ、彼女の人生の行く末が気になってしまうのだ。いわゆる私は第三者、傍観する立場にあった。できることなら彼女には幸せになってもらいたい。彼女が、幸せになろうが不幸せになろうが私にメリットもデメリットもないのだけれど。 「あの人」はひとつの雑誌の前で足を止めた。某有名なウェディング情報雑誌の前である。「あの人」はそれを手にとって、パラパラと流し読みを始めた。「あの人」が立ち読みをするのは珍しい。最後のページまで読み終えたのか、数分後「あの人」はレジにウェディング情報雑誌を持ってきた。雑誌の表紙ではきれいな白のウェディングドレスを着た有名女優、深山円が微笑んでいる。 「あの人」は結婚をするらしい。 「300円になります。」 会計後、いつものように「あの人」へレシートを渡すと、彼女は少し表情を緩ませて会釈をした。 毎日、小中学生が立ち読みに来たり男子高校生がもじもじしながらエロ本を買いに来る姿しか見ていなかったため、「あの人」の幸せそうな顔は私にとって眼福だった。
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