春の章

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  出会ってから数日しか経たないが、ガラス片を片付けながら矢文の内容を察するに恐らくは花見のお誘いである。 しかし、出会ってから数日しか経たないにも関わらずここまでの暴挙をするあの人は、本当に変態である。 そしてあの変態は、お誘いを寄越したにも関わらず、場所の確保からつまみやお酒、あわよくば一芸まで要求するであろう。なんて横暴な!! 未だに矢文の内容を確認していないのに怒り心頭になる私を見て、あの人は高笑いをかましていそうで更に腹が立った。 しかし、聡明なる読者諸賢は、怒るべきは見てもいない矢文の内容への迷走気味の妄想ではなく、矢という凶器を撃ち込まれてガラスを砕いた事に怒るべきだと思っているのではあるまいか? その意見は最もである。それに嫌なら花見も断ればいいと思うであろう。 通常の思考ならば私だってそう考える。恋に現を抜かして落第する阿呆ではあるが、人間としての道や考え方は踏み外してはいないと自負する。 しかし、その自負はやはり人間から見た価値観なのであろう。残念ながら、変態のあの人にはそれは通用しないのだ。あの人の示す道は人間の身で歩むのが困難であるが故に、私の目指すものに通じているかも知れない。 それに、あの人には『力』もキチンと有ったから、そもそも理由などは意味を持たない。
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