46人が本棚に入れています
本棚に追加
地元民ならこの山に天狗が住んでいると言うお伽噺は誰でも知っていよう。私も知っていた。故に巖苔山神社は天狗神社の愛称で呼ばれるのだ。
だがしかし、実際のところは変態が住んでいたなどとは思わなんだ!!蓋をあければとんだパンドラの箱もあったものだ。飛び出した絶望の大きさに、あるべく希望も雲散霧消してしまうであろう。
そんな調子で愕然とし混乱状態に陥った私に、実氏は飄々と声をかけた。
「やあやあ、昨今の若者にしては随分と微妙な、それでいてなんかこうのっぴきらない雰囲気が漂う素朴な感じで憎めないね。うん、良い意味で言っているよ、だから安心したまえ。……それで、本気ならば私は力を貸すことにやぶさかではない。まあ、あの声量だもの、いい加減な気持ちで出せるものでも無いわなあ。そうだろう、そうだろうとも!ならば話は早い。この私に師事したまえ?君を立派な何かになれるよう導いてしんぜよう。異論は無いよね?」
「……はい?」
「打って変わって間延びした声だが、まあ良かろう。期間は一年だ。一年間、私は君の師匠になりて導き続ける事を約束しよう」
こちらの置いてきぼり感は大層なものであったのだが、実氏は完全に乗り気のようで、満面の笑みで――実際には天狗面で隠れてわからないのだが――私の肩に手を置いて言った。
最初のコメントを投稿しよう!