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  二つの意味で『華のない生活』という、自分の努力次第でおそらくは簡単に打破できるであろう生活を送る私に、去年のお盆が明けたある日の事、密かに憧れていた大学のクラブの後輩に想いを打ち明けられ、晴れて(しかし受動的に)『華のある生活』を私は手に入れた。 早々に絶望――と言うか望みをもつことしらしなかった恋人が居るという状況だけで、普段の生活が全く別のものになったものだ。 趣味趣向全開だった部屋は綺麗に片付けられ、機能性と着心地のみを追求した衣服は他人の眼を(自分なりに)意識し、張り付いていた無表情は締まりの無い不気味な笑顔に変わった。 要するに、舞い上がって居た訳で、全く持って新鮮な刺激があると言う日々の高揚感に酔いしれて、学生の本分である学問を等閑にして、私は進級試験を落第して、四回生になり損ねた。 愛しのあの子に、その事実を伝えたならば、その場では困ったような笑顔を浮かべるだけだったのだが、こまめに行われていたメールのやりとりの間隔が開きつつあり、状況に甘えきっていた私が、遅ればせながらようやく違和感を感じだした春休みの終わる一週間前に、私は袖にされた。 その後、茫然自失の一週間を過ごして後、「ようやく元の自分に戻っただけなのだ。半年間、楽しく過ごせて、感謝である」と、強引に小利口に纏めてみたものの、時折胸を刺す喪失感には未だ耐えられず、元に戻ったなどと自分にいくら言い聞かせても、あの高揚感の後に待ち受けていた現実は、自分には何も無かったような気分にさせた。
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