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  もともと、他人に誇れる確固たる特技や個性など持ち合わせてはいない私であったが、『他人の為には生きてない』などと、そもそも尋ねられてはいないのにそのような自己弁護を振りかざす、勘違いした孤高の生き方を貫き通していたように思える。 それがどうして、優しさというぬるま湯に少々浸かっただけで、こうも腑抜けてしまうのだろう。 『華のない生活』が転じて『華のある生活』になり、再び『華のない生活』に戻っただけ。 それだけなのに、それだけなのに。 『ギャップ萌』という感覚があるように『ギャップ墜ち』という感覚で、元より更に何もない人間に感じるのだろうか。 そんな自問自答を繰り返した一週間ではあったが時薬とは上手いこと言ったもんで、少し動けるようになった私は、喪失感を埋める為に、所謂『自分探し』という、端からみたら恥の上塗りをすべく、実家に一時避難して過去の自分と対峙をした。 産まれてから二十年とちょっとの期間、貯められ続けた成長の記録と軌跡は、なかなかの量があったが、通常営業とは異なる今の自分は呆れるくらい丁寧にひとつひとつに目を通し、逐一当時の自分に思いを馳せた。 古い文集などという、恥ずかしさで逃亡したくなるような痛さを装備した強敵の出現にも、読み返してセンチメンタルに浸ると言う荒技までこなしてしまった。 実家の一室にて昼過ぎに始めた『回想』も、部屋の暗さにふと時計を見ると、日没をとうに過ぎていて、しかしそんな事実にもなんにも思わない自分も居て、読むことのかなわなかった昔の作文を集め、立ち上がって伸びをした。適当に片付けをした後、集めた作文を自分の城へ持ち帰る事にした。
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