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学校へ行くと、昨日までの虎之介への視線ではなかった。
全校集会で虎之介のことが説明され、壇上に上がらされた虎之介の発する香りに皆が酔った。
黒月だけを除いて…
「虎ぁ…来い!帰るぞ」
「う…うん」
黒月に呼ばれ、授業も始まらないうちに連れ出されてしまった。
黒月の後ろを歩きながら、ふと気づいた。
(あれ?黒月、こんな小さかったっけ?)
今まで目にしなかった部分も見えた。
(髪も耳も…真っ黒で艶々で綺麗…尻尾だって丸くて本当に黒真珠みたいだ…触りたい…)
黒月は不機嫌な顔のまま黙って車に乗り、“兎小屋”に着いてもいっこうに話もせず、気まずい空気の中時間だけが流れる。
「おまえ…本当に虎なのか?」
不意にベッドに腰掛けた黒月が、目の前に立つ虎之介に苦しそうな悲しい声で言った。
『う…ん』と頷くと、黒月は怒りの目で叫んだ。
「違う!てめえなんか虎じゃねえ!返せ!昨日までの虎を…返せ!!」
「ふーん…なあんだ。やっぱりチビで非力の思い通りにしやすい“僕”がいいよな…力と血統を誇示出来て、押さえつけ、ねじ伏せることが出来るからな」
虎之介は冷めた目で黒月を見下ろした。
「うるさい!会わせろ!虎に戻れ!」
「はあ?ばっかじゃねえの?まだ理解出来ねえのかよ」
虎之介は見下した目で呆れた顔をしている。
「俺が虎之介だって。ホント何言ってんの?だいたい無理だって…俺だって朝起きたら知らない間にこうなってたんだから…」
肩をすくめる虎之介に、黒月は立ち上がり胸ぐらを掴み…
「お願いだ!頼むから…戻ってくれ…虎に…虎に会わせ…て…昨日までの虎に…会わせてくれ…」
(何故…泣いてる?コイツ…何に泣いているんだ?)
「虎に…会いたい…会いたい…虎ぁ…」
黒月は涙をボロボロ流しながら虎之介の中の“昨日までの虎”に訴えた。
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