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及川はまだ分かる。調査が忙しいだろうから。
しかし匠は別だ。特に用事があるとも訊いていないし、どこで油を売ってるんだか。
廊下で劇の練習を行っていると、不意にポケットが震えた。
バイブレーションに設定していた携帯電話か。
こそこそと確認すると、受信メールが一件入っていた。
差出人は…………及川進か。
中身を見たら、何やら呼び出しの内容が記されていた。
そこで待ち合わせをしようとのことらしいな。
「――烏丸。次はお前の台詞だぞ」
「ん?あぁ、悪ぃ」
今は抜け出せそうにない。
一段落つくまで、腰を落ち着けとくしかないか。
俺は台本を手に、天宮と向き合った。
今は『鬼ヶ島に辿り着いた桃太郎と悪魔が対峙する』シーンだ。
天宮は見せかけだけの模造刀を手に、台本を持たずに台詞を紡いでいく。
いよいよ俺の番だ。
「がははは、小僧が。我輩にい、挑んだことを後悔させてくれようぞ。ふはははははははははははははは」
棒読み。アナウンサーがどれだけ凄いか身に染みて実感できる。
この場を抜け出せたのは、これより十分も後だったという。
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