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射抜くような目付きを及川に向けたが、見ていないかのように彼は受け流す。
それから、諭すように言う。
「やめた方が良い。死ぬぞ」
『死ぬ』という現実味を帯びた言葉に、俺の心が凍りつく。
焦る俺を置き去りに、さらに言葉は続く。
「『聖隷の魂』が解放されてから、もう二ヶ月経った。これがどういうことか分かるか?」
「…………」
「“もう奴らは本気で戦えるってことさ”。今までのような比じゃない。ただでさえ生前から化け物だった魔導師を、さらに強化した存在だ。次元が違う」
恐らくは。
気付いていた。ただ、それを直視するのが怖くて。
「それに奴らは容赦しない。“人の命を奪うのを躊躇う奴らじゃないんだ”。それができない君との差は歴然という以前に、実力差がありすぎる」
返す言葉がない。あまりに正論過ぎて。
「幸い、脅威になりうるのはロシア皇太子のみだ。きちんと戦略を考えて、隙を待つ。これが最善なんだ」
間違いはない。
ロシア皇太子が帰った後でも、警察が動いてからでも……、それが『最善』なんだろう。
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