魔導師誘拐事件

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  ただ。 「及川」 多少冷静さを取り戻した口調で、 「お前の言い分はもっともだ」 「……」 彼は何も言わず、俺を見据えている。 普段のおどけた様子を毛ほども見せない、真剣かつ無表情で。 「だけどな!」 俺は周囲の目を気にすることなく、訴えた。 「待てると思ってんのか、馬鹿野郎が!!」 正しいことが正解とは限らない。 少なくとも。 頭が最善策を提示していても、俺はそれを認めるわけにはいかなかった。 「何で!まだ動き出してすらいない奴に、これ以上待てって言えんだよ!!」 「…………」 及川進はプロだ。 闇の事情は俺よりも遥かに詳しいし、そこで何を学んだのかも分からない。 若くして数多くの血を見てきた及川は、そうならないように安全策を提示するのだろう。 彼の配慮は正直ありがたい。状況が違えば、そっちを選んでいたかもしれない。 ただ、今回は選ぶべきでも、選ぶ資格もない。  
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