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「たのも────!!」
二階建ての一軒家の前で、竹刀を腰に差した少女は声を張り上げた。
しかし、何の返事も返ってくる様子は無い。この家以外に何も建築物はなく、当然周りに人影は無い。蛮声に驚いた鳥達がバサバサと飛び立つ音がするだけだった。
少女は静かに息を吐き、勢いよく吸い込んだ。
「た──のも────!!!!!!」
地鳴りする程の声を出したかと思うと、少女は更に続けた。
「ここに居るのはわかってんだよ! さっさと出て来い!」
まるで、どこぞのやの付く自由業である。今にもドアを蹴破りそうな言葉に慌てて階段を降りる音がした。少女は腕を組み、玄関が開くのを待った。
「うわぁああ、すみません、すみません、ちょっと待って下さい、今行きますかr「遅いっ!」
まだ姿の見えない住人に少女は啖呵を切る。バタバタと言う音が玄関に近づき、扉が少しだけ開いた。
「あのー、宅配便……じゃないですよね、わかってます、どちら様でしょうか」
恐る恐る尋ねる声と、姿も顔も見せない様子に、少女は眉を寄せる。
「その声はゆうりんね? まさか私を忘れたわけ?」
「えっと……、あ、もしかして、りっちゃ「そう! 現在、第七師団所属の騎士見習い、王都学院出身の 染亥 六華(ソメイリッカ) よ!」
ゆうりんと呼ばれた声の主──柏葉 悠梨(カシワバユウリ)は、あまりの気迫に思わず戸を引こうとした。が、それは叶わなかった。 六華が僅かにある隙間に足を差し込んだのだ。
「ゆうりん? 何閉めようとしてんの? 人の話は最後まで聞くものよ」
「ちょ、ちょっと待って、チェーンが……、今外すから! 一回閉じないと外せないから!」「ああ、わかった」六華は足を引き抜きながら隙間を覗き込む。「嘘吐いたら、承知しないよ?」
「わ、わ、わかってます!」
悠梨は勢いよく閉めると慌ててチェーンに取り掛かり、外し終えるとそろそろと様子を伺いながら戸を開ける。半分ぐらい開ければ、笑顔で仁王立ちしてる六華の姿がよく見えた。
「上がらせて、くれるよね?」
悠梨に拒否権など無かった。
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