布団の心地好さは魔の誘惑

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 座敷に正座をしている六華に、悠梨はお茶を渡す。 「繭──籠本 繭(カゴモトマユ)は? 一緒に住んでるんでしょう」  六華は一口啜り、それを置くと姿勢を正した。 「えっ、と……、その……」 「前もって知らせが届いてるはずよ」 「それが……、」悠梨は散々目を泳がせた後に、無言に後押しされ歯切れ悪く続けた。「やりたくないって……」 「はあ!? 何言ってんのアイツ!! 断れないの知ってるでしょ!?」 「家から出たくないとか……」 「まだ言ってるの!? ちょっと会わせなさい!! どこの部屋!?」  六華は悠梨を引きずって、階段を駆け上がる。悠梨が震えながら指差したドアを勢いよく開ければ、部屋の奥には盛り上がった布団があった。 「ま──ゆ──ぅ?」  六華はその白い塊の前に仁王立ちし、地を這うような声で中に居るであろう人物の名を呼んだ。しかし、一瞬びくっと動いた限り反応が返ってこない。大きく溜息を吐くと布団に手をかけ、力の限り引っ張る。 「出てきなさい!! まゆ!!」  ずりずりと布団ごと引きずられていく。悠梨はその周りをあわあわとうろつくしか出来なかった。 「わかってるでしょ、まゆ。勇者に選ばれたのよ。神官による厳正なる籤引きで!」  一息吐き、六華は改めて力を入れた。 「この国での神官の籤引き結果が、大神アルサテマ様からの御託宣なのは、アンタも、よく、知ってるで、しょ……っ」 「うわぁあぁぁああ」  布団が取っ払われ、そこに居たのは、果たしてバトミントンのラケットを抱えて丸まる少女──籠本繭だった。 「すみません、すみません、だから布団返してぇえぇええ!!」 繭は既に涙目だった。しかし、言ったところで布団が返ってくるはずもなく、寧ろ遠くに投げられる。繭はそれを追おうとしたが、六華に腕を掴まれ、叶うことは無かった。 「さあ、出掛けるわよ」  こうして引きこもり勇者の珍道中が幕を上げたのだった────
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