玄関は、遠い

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 勇者の珍道中は始まった。しかし、勇者一行は未だ道に出てはなかった。着の身着のままに外に出るのは流石に危ないということで、旅の準備をするためだ。 「ゆうりんは、専攻補助系だったよね?」 「え、うん、そうだよ。」  三人は王都学院の元クラスメイトもとい友人であった。大都学院は能力者が通う、その名の通り大都にある学院である。専攻系統の勉強に専念する16までは、一般教養を養うために様々な能力者が一緒に勉強するのである。ここで言う能力者とは、おおまかに魔法、武術、その他に頭脳等において優れた潜在能力を持ち得る人を指している。その中で、悠梨は魔法科の補助系統を専攻していた。ちなみに六華は武術科の剣術系統である。 「今は一応、治癒師やってる。」悠梨は応えながら、首にぶら下がる手の平程の大きさの角笛を摘み上げる。「時々、街に出て稼ぐって感じかな? あとは、合奏とかに参加したりして」 「ああ、ゆうりんの場合は音でやるもんね」  じゃあ、ゆうりんはそれでいいよね、と六華は様子を伺う繭の方に顔向けた。繭は魔法科にも武術科にも属さない研究科だった。研究科とは、魔法や武術にも通じているが他と違い実践は少なく、どちらかと言えば歴史や風土、算術や言語等を専門としている。そのため、基本的に戦闘において武器となる物はない。 「まゆ、は……、そうだ、そのラケットがあるじゃない!」 「ええっ、ちょ、どうすれば」 「殴打するには使えるでしょ」 「それ、ラケットの使い方じゃねーよ!」 「大丈夫、勇者なんだから」 「正気ですか、おねーさん……」 「球とかをラケットで狙って打てば、長距離でも使えるし、中々良いじゃん」 「おーい、六華さーん」  繭と悠梨が交互に突っ込もうが、まるで聞いていなかった。  そんなわけで、勇者の武器は六華が来たときに思わず引き寄せたラケットとなった。練習用の安いラケットである。間違っても敵に打つためのものであって、敵を討つものではない。勿論、棍棒としての用途は持ち合わせてない。
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