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セミたちも騒がしく鳴き始め,これから本格的な夏が始まろうとしていた7月19日。
虹空高等学校2年3組に所属する高橋悠斗はYシャツをパタパタ仰ぎながら,ほかの生徒たちと同様に蒸し暑い体育館から解放された。
校長の長ったらしいくだらない話を聞き流し,ようやく終業式という今日のメインイベントを終えた。
終業式とはつまり,今日で一学期が終了することを意味し,同時に明日から夏休みでもあるという事もあらわしている。
「やっと終わったな」
生徒たちがごみごみしている体育館出入口付近で声をかけてきたのは滝口颯太(たきぐち そうた)だった。
「これから飯にしよう」
「そうだな」
二人はだらだらと教室に戻り,取ってきた弁当を中庭のベンチで広げた。
「そう言えば岩田はどうしたんだ?」
「なんかやりたいゲームがあるから帰るってさ」
さすが岩田だ,と高橋は思った。
岩田武蔵(いわたむさし),名前だけ聞くととても勇ましい大男を想像してしまうが、実際は小柄でやせ気味の現代っ子である。
暇さえあればゲームをいじるゲーマーで,先ほどの終業式でも携帯ゲーム機を手にしていたのを確認している。
彼には「ガンダム」という変わったあだ名がある。そのせいもあって校内のゲーム好き男子の間ではちょっと名の知れている生徒なのである。岩でガン,田でダ,武蔵のムでガンダム。誰が名づけ親か知らないが,よく考えたものだと思う。
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