ー始まりを謡う鷹ー

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高々と青い空。 一羽の鷹が悠々と舞う。 その空の下。なだらかな丘と、豊かな森。 丘には若緑色の命が多く茂り、森の木々は風に揺れ、さわさわと音を立てている。 小鳥たちのさえずりが風に合わせて歌を奏でる。 森の中を流れる清流が、涼しげな音色を流す。 その生命の奏をすべて吹き飛ばすような荒々しく巨大な咆哮が、突如森の奥から響き渡った。 咆哮は辺り一帯に轟き、空へも届く。 その咆哮に反応したかのように、空にいた鷹が鳴き、眼下に広がる森に向かって、一直線に翼を翻した。 ・・・・・・・ やばい。やばい。 頭の警報装置が、さっきからガンガン頭の中で警告を伝えてくる。 だが脳からのその命令とは裏腹に、大地を蹴る足はなかなか前へは進んでくれない。 恐怖に弛緩しているのか。それとも単なるスタミナ切れか。 どちらにせよ、それは今の自分にとって、死の材料になりかねない。 「くそ……! 動けよこのへたれ足っ……!」 自らの足に檄を飛ばすその声にも、荒い息遣いが混じる。 背後から、咆哮が轟いた。 森が長い時間をかけて育ててきた巨大な木々が、その咆哮の主に薙ぎ倒され、ギシギシと悲鳴を上げて倒れてゆく。 自分に迫る死の気配に、一瞬体が竦んだ。 だが、後ろを振り返る余裕はない。 少年はあらぬ体力と気力を必死に絞り、言うことをきかない手足を無我夢中で動かした。 ここは「丘陵」地帯の森の中。 命豊かなこの森は、近隣の村に住む人々にとって、生活を営む支えとなる恵みの森である。 糧となる数多くの草食竜。季節に応じて実る果実。清らかな水。立派に育った木々。 それらはみな、人々が生きていくうえで欠かせないものばかりだ。 しかしその豊かさは、人間にとってのものだけではない。 他の生き物もまた、その恵みを授かるために、森を自らの縄張りにしようとやってくる。 故に、種族間の縄張り争いは、起こるべくして起こる。 そしてその争う「種族」の中には野生の生物の他、無論、人間も含まれる。
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