オトナの階段

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しかも最悪なことに。 俺は確かにテレビのモニターは切ったのだが…、 DVDそのものは停止させていないのだ。 つまり、どういう状態か。 画面が映っていないだけでDVDはいまだに再生を続けており…、 『…んっ!あっ、あぁ~ん…!』 音声は、スピーカーからダダ漏れなのだ…!! 「…ん?今、なんか変な声が聞こえなかった…?」 「!?」 ママが、リビングの中をキョロキョロと見回す。 まずい! いや、さっきからずっとまずいのだがいよいよ本格的にまずい! DVDの再生を停止させよと本能が告げる。 パンパンと肉と肉がぶつかり合うような音が次第に激しくなり、ヴィエラさんの喘ぎ声もますますヒートアップ。 あぁ、せめて音声だけでもミュートしたい!だが今、そんなあからさまな真似をする訳にはいかない…! 「違うよママ!い、今のはアンパンマンの声だよ!」 『あッ!あッ!もっと…、もっと激しくしてェッ!』 「きょ、今日のアンパンマンはバイキンマンの手によってドMになってるんだ!そこにスパイダーマンが…!」 「ちょっと貸しなさい」 ママは震える俺の手からテレビのリモコンを奪い取ると、容赦なくモニターの電源をオンにした。 そこに映し出される、裸になってもつれ合う二人の男女。 『あッ、あッ、ダメ、ソコ…!クリ感じちゃうのォッ…!』 「…えーっと、その」 俺は顔面蒼白になって立ち尽くすママに、静かに告げた。 「やはり、クリステルが一番感じるようです」 俺が最後に見たのは、 鼻血を噴きながらリビングの壁際まで吹き飛ばされた憐れな弟の背中だった。 無論、その直後に自分も同じ目に遭わされたのだが。 かくして俺たち兄弟は、 仲良く揃ってオトナの階段をまたひとつ、上ったのだった。 (おわり)
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