オトナの階段

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「いいだろう。にぃちゃんに任せておけ」 俺は少し、ほんの少しだけ躊躇いながらも弟をパパとママの寝室に連れていった。 大丈夫。 パパとママが帰ってくる夕方まで、まだ時間はある。 そして、寝室にあるウォークインクローゼットの中に、弟と俺は潜入した。 目当てはクローゼットの一番奥に無造作に置かれた、パパの出張用の旅行カバン。 そのカバンの奥底に―…。 「わっ!にぃちゃん!なにコレ!?」 そこから出てきたのは、数枚のえっちなDVD。 ママでさえ未だに気づいてないだろうけど、俺は前々からこの存在に気づいていたんだ。 えてして子供というものは、「宝物」の隠し場所にめざとい生き物なのさ。 「よし、この中から一枚を選び、リビングで観るぞ。えーっと、どれどれ…?」 俺は弟と一緒に、そのDVDのタイトルを一つずつ吟味していった。 『騙された美人転校生!肉欲生徒会の甘い罠』 『騙された若妻!盗撮された肉欲の不倫旅行』 『騙されたアイドル!マネージャーの仕掛けた肉欲のニセ番組』 『騙された美人教師!極悪PTA会長と肉欲の職員室』 「…にぃちゃん、なんか、騙されてばっかりだね…」 「うむ。パパは騙し合いが好きなのだろう。いつも火曜日はサスペンス劇場観てるしな」 パッケージに踊る美人なおねーさんの色っぽい視線に胸を高鳴らせつつ、俺と弟はどれを観ようかと思案する。 これと言って決め手に欠ける中、弟が一枚のDVDを俺に差し出してきた。 「ねぇ、にぃちゃん。これだけ、なんか他のと違うくない?」 確かにそれは、きらびやかなパッケージに彩られた他のDVDと違い、なんと言うか、ひどく地味である。 さらに言えば、その地味なDVDには、他のにはない一言が書かれたステッカーが隅の方にひっそりと貼られていた。 『無修正』、と。
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