オトナの階段

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「にぃちゃん…、無修正って、なに?」 その地味な、市販のCDケースにステッカーが貼られただけのDVDをまじまじと見つめながら弟が問う。 「うむ。映画とかでもよくあるだろ?いわゆるディレクターズカット、ってヤツだ。上映時間などの都合で泣く泣くカットしたシーンもすべて網羅した、いわば『完全版』だ」 「へぇー!さっすが、にぃちゃんは何でも知ってるね!」 「うむ、にぃちゃんに解らぬことなど無い」 そう言って胸を張った俺に、弟はその無修正DVDを差し出し、頬を赤らめて高らかに宣言した。 「じゃあ、にぃちゃん!ボク、コレにする!コレ観ようよ!」 うむ、さすがは我が弟。 見た目に惑わされず、物事の『本質』を見抜く力を持っているようだな。 俺も特に異論はなかったので、その無修正DVDを持ち、寝室をコソコソと後にした。 今、家には誰もいないのだからコソコソする必要などまったくないのだが、どうやら俺も弟も、『観てはいけない』モノをこっそりと観ることに密かな快感を見出だしているようだった。 ◇◆◇◆ さっそくリビングに戻り、俺はテキパキとDVDプレーヤーの準備をする。 「にぃちゃん、早く早く…!えっちなの早くみたいよ…!」 落ち着け、弟よ。 オトナの男はな、エロDVDをセットする時でさえクールでなければならないのだ。 再生ボタンを押す時に至っては、英国紳士のごとき気品高い微笑みを浮かべながらな。 できればついでにアプリコットティーあたりも欲しいところだが、今この現状では贅沢は言えまい。 そしてついに、 ピンク色のなにやらいかがわしいメーカー名のロゴに続き、本編がスタートした。 画面に登場した色っぽいおねーさんの全身を、カメラがいやらしく舐めるように映していく。 胸元のぱっくりと開いたシャツから覗く胸の谷間。 もはや下着ですかと問いたくなるほど布面積の小さなデニムのホットパンツから伸びる綺麗なナマ足。 上目遣いに、男性を挑発するような野性的で淫靡なその瞳―…。 俺の隣りから弟の生唾を飲み込む音が、静かなリビングにごくりと響いた。
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