オトナの階段

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「…ママだ!!」 俺と弟はまるで雷にでも打たれたかのように飛び上がると、玄関の方向へ五感を集中させた。 「いるなら返事しなさーい。宿題もう終わったの~?」 やはり、ママの声だ。 しまったな…! 俺としたことが、DVDに夢中になるあまりママがパートから帰ってくる時間を計り損ねたか…! まずい!まずいぞ! こんなえっちなビデオ観てたなんてママにバレた日には、宿題どころか人生が終わってしまう! 「おい、停止ボタン!停止ボタン!」 俺は慌てて弟に指示を出す。 だが、憐れにも俺以上に慌てた弟はすでにまったく制御が効かなくなっていた。 「…えと、えと…!にぃちゃん!停止ボタンて、こ、コレ…!?」 「違う!それはチャプター選択ボタンだ!その下!下!早くしろ!鬼が来るぞ!!」 「…あら、ふたりともリビングにいたの?珍しいわねぇ」 買い物袋を両手に抱えたママがリビングにひょっこりと顔を出すのとほぼ同時。 リモコンを握ったままの弟を突き飛ばして、俺はテレビのモニターを直接切ることに成功したのだ。 「あ、ママ、お帰りなさい…!は、はは、早かったね…!は、はは…!」 「どうしたの?真っ赤な顔して?熱でもあるの?」 「いや!違うよ!ないない!熱もやましいことも何もない!」 「?」 ブンブンとオーバーアクションで否定する俺と弟を訝しげに交互に見つめながら、ママは首を傾げていた。 「なぁに、ふたりでテレビでも観てたの?」 「うん、そうだよ!」 「うぅん、DVDだよ!」 俺と弟の言い訳が、完全に矛盾しながら交差する。 「どっちなのよ…。DVD観てたの?何の?」 「スパイダーマン!」 「アンパンマン!」 あぁ…、何と言うバッドコンビネーション。 「スパイダーマン?アンパンマン?どっちなの!?」 「えと…、スパイダーマンvsアンパンマン!」 やなせたかしもびっくりな好カードだったが、どうやらママの俺たちふたりに対する不信感は募る一方のようだ。 “あんたたち、なにか、ママに隠し事してるでしょ…!?” 顔に、そう書いてある。
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