将星落つ

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「小喬と申します。そちらにいる大喬の妹です」 ちょっと機嫌が悪いらしい小喬殿は、それでも礼儀正しく挨拶してくれた。 聞けば彼女たちは、敵将の娘だったらしい。自軍が戦に負けて、しかも父親は恐らく戦死し、自分たちは誘拐に近い形で連れて来られて。不機嫌になるのも仕方ない気はする。 「お初にお目にかかります、孫尚香です。こちらでの生活に不自由などありましたら、わたし如きで良ければ何でも遠慮無く仰ってください」 少なくともそこで転がっている長兄よりは役に立つつもりですから。 安心させるようにそう言うと、彼女はぎこちないながらも笑みを浮かべてくれた。 笑うとやっぱり美人さん。美女には笑顔がよく似合う。 少し心配なのが、小喬殿の公瑾殿に対する心だ。 視線や表情を見れば分かる。明らかに嫌悪感と警戒心しか無い。 いや、仮にも敵軍の将だし、何なら親の仇だと考えれば、これが普通なんだろうけど。 大丈夫かこの2人、ちゃんと打ち解けられるのかな。 恋の橋渡しは専門外です、超心配。 結論から言えば、問題は全く無かった。2組のカップルは結婚し、わたしは美人な義姉を2人もゲットしたのである。 伯符殿と大喬殿、公瑾殿と小喬殿は仲睦まじく、伯符殿の子供たちも大変愛らしくすくすくと育った。ちなみに彼らは大喬殿の産んだ子ではない。 一夫多妻制のこの時代において正室と側室がいるのは当たり前。そして正室と側室及び側室同士は、必ずしも仲は悪くなく、新入りの大喬殿も、何ら問題無く馴染んでいるようだった。 なお、この子供たちの内女の子の1人は、後に呉の名軍師の1人として数えられる陸遜殿の奥方となるのだが、それはまた別の話。 周瑜殿にも子供はいて、子供たちとの年齢の近さもあってか、わたしはよく遊び相手などをしていた。 子供は正直苦手だけど、父親方は忙しい身だし母親だけに任せるのも大変、かと言って女中に全部押し付けるのもあまり気に入らないので、喜んで子守を引き受け、今に至る。 そうして平穏の中、わたしは10歳になった。 平和だった。とにかく平和だった。 戦乱の世だということを忘れそうになる程、幸せな日々が、続いていた。 その日が、訪れるまでは。
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