世の中にファンタジーは転がっている

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皆さんこんにちは。 わたしは疾風。 きっとどこにでもいる普通の女子高生。 今、わたしは困っている。 非常に困っているのだ。 「(わたしは何故、生きているんだ?)」 この状況を説明するために、少々時を遡ろうと思う。 ~某月某日 某所にて~ 今日も今日とて、学校帰りのわたしは、駅のホームで電車を待っていた。 いつも通りに携帯をイジりながらいつも通りに時間を確認し、そのときいつもとは違って誰かに線路に突き落とされた。 人々の悲鳴が聞こえる。 電車のライトが見える。 ああ、わたしは死ぬのか。 そう思った直後、ブシュッと鈍い音と共に赤い飛沫が舞い。 すぐに視界は暗転した。 そして、次に目を開けたわたしが目にしたのは。 「あっ、目を覚ましたわ。かわいい!」 「ああ、お前に似て美人な娘だ!」 知らない美男美女夫婦と、こちらを覗く数人の男の子だった。 「(・・・誰?)」 半分パニックを起こした頭で考えてみた。 だが、分からない。 まず何より問題なのは、彼らの言語が理解できない点だ。 わたしはチラリと自分の手を盗み見た。 紅葉のように小さい、赤子の手。 「(どうしてわたしは縮んでいるんだ?)」 何とか抗議も試みたが、「あ~」とか「う~」なんて意味の無い単語しか話せない。 困り果てたこっちの心情も知らず、子供たちが話に加わる。 「父上、母上。妹の名前は、もうお決めになったのですか?」 長男らしい子が尋ね、父(仮)は答える。 「もちろん決まっておる。姫、お前の名は尚香だぞ!」 バーンと名前を書いた紙をわたしに見せる父(仮)。 この人、相手が赤子なのを忘れてはいないだろうか。 とりあえず、兄(仮)の言葉の中に妹を表す「妹々」が聞き取れた。 これを最初のヒントとしよう。 つまり、ここは中国。 親子は中国語を話している。 次のヒントが、わたしに与えられた名前。 「尚香」の名を持つ中国人を、わたしは1人しか記憶していない。 三国時代、呉の国に孫夫人と呼ばれた姫君がいた。 「三国志演義」では孫尚香と記載される、武芸を好む美しい女性。 わたしは何と、彼女に成り代わってしまったのである!
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